「複数のサーバーで同じファイルを使いたいけど、どのクラウドストレージを選べばいいかわからない」とお悩みではありませんか？
結論から申し上げると、Webサイト運営や業務システムでファイル共有が必要な中小企業には、Amazon EFSが最適な解決策です。 一方、Mountpoint for Amazon S3は機械学習やデータ分析など、大容量データの高速読み込みに特化したツールで、一般的なビジネス用途では期待した効果を得られません。
この記事では、実際に両方のサービスを検証した経験をもとに、あなたの会社の課題に最適なストレージ選択をお手伝いします。読み終える頃には、「うちの会社にはこっちが合っている」と確信を持って導入を進められるようになります。
クラウドストレージが解決する「よくある会社の困りごと」
まず、なぜ多くの企業がクラウドストレージの導入を検討するのか、実際の課題から見ていきましょう。
【課題1】サーバー停止で業務がストップする
Before（導入前の困った状況）
- 画像ファイルを保存しているサーバーAが故障
- サーバーBからその画像にアクセスできない
- お客様向けのWebサイトが表示されない
- 復旧まで業務完全停止
After（導入後の理想的な状況）
- 画像ファイルは共有ストレージに保存
- どのサーバーからでもアクセス可能
- 1台のサーバーが故障しても業務継続
- お客様への影響なし
【課題2】ファイルの二重管理で混乱
Before
- 同じファイルが複数のサーバーに散在
- 「どれが最新版？」と毎回確認
- 更新時は全サーバーにコピー作業
- 人為的ミスで古いファイルを表示
After
- ファイルは1つの共有ストレージに集約
- 常に最新版を全サーバーが参照
- 更新は1回だけ、即座に全体に反映
- バージョン管理の悩みから解放
【課題3】システム拡張時の複雑な作業
Before
- 新しいサーバーを追加するたびに
- 既存サーバーからファイルをコピー
- 設定の同期作業で丸1日
- 作業ミスでサービス停止のリスク
After
- 新サーバーは共有ストレージにアクセスするだけ
- ファイルコピー不要で30分で完了
- 設定ミスのリスク大幅減少
- スケールアウトが簡単
Mountpoint for Amazon S3とAmazon EFS：何が違うの？
それでは、今回比較する2つのサービスの違いを、分かりやすく整理してみましょう。
簡単比較表
| 項目 | Amazon EFS<br>（ファイルサーバー） | Mountpoint for Amazon S3<br>（高速データ読み込み） |
|---|---|---|
| 主な用途 | 複数サーバーでファイル共有・編集 | 大容量データの高速読み込み |
| ファイル操作 | 読み書き・編集・削除すべて可能 | 読み込みと新規作成のみ |
| 対象ユーザー | Webサイト運営、一般的な業務システム | 機械学習、データ分析、研究機関 |
| 料金の目安 | 月額数千円〜（容量による） | 基本無料（S3の利用料のみ） |
| 日本語サポート | AWSの日本語サポートあり | AWSの日本語サポートあり |
| 導入難易度 | ★★☆（中級） | ★★★（上級） |
それぞれを一言で表すと
- Amazon EFS = 「クラウド版の社内ファイルサーバー」
- Mountpoint for Amazon S3 = 「研究所や工場の巨大データ専用高速アクセスツール」
Amazon EFS：一般企業の救世主
Amazon EFSは、従来の社内ファイルサーバー（NAS）をクラウドに移行したものと考えると分かりやすいでしょう。
主要な機能と特徴
【機能1】完全なファイル操作対応
- ファイルの読み込み、書き込み、編集、削除
- フォルダの作成、移動、コピー
- アクセス権限の細かい設定
- まさに普通のファイルサーバーと同じ感覚で使用可能
【機能2】複数サーバーからの同時アクセス
- 最大数千台のサーバーから同時接続可能
- リアルタイムでファイル変更が反映
- 排他制御で同時編集時の競合を回避
- 「このファイル、誰か使ってる？」の心配不要
【機能3】自動バックアップとセキュリティ
- 自動的に複数の場所にデータを複製
- 99.999999999%（イレブンナイン）の堅牢性
- 暗号化による機密情報の保護
- 「データが消えた！」の恐怖から解放
料金プランの選び方
Amazon EFSの料金は、保存するデータ容量とパフォーマンスモードで決まります。
標準クラス（推奨）
- 料金: 1GBあたり月額約33円
- 使用例: 100GB使用で月額約3,300円
- 適用場面: 一般的なWebサイト、業務システム
低頻度アクセスクラス
- 料金: 1GBあたり月額約3円（読み書き時は別途料金）
- 使用例: バックアップファイル、古いドキュメント
- 適用場面: 月に数回しかアクセスしないファイル
コンサルタントからのアドバイス
「まずは標準クラスでスタートし、3ヶ月後にアクセス頻度を分析して最適化するのがベストプラクティスです。初期段階で複雑に考えすぎると、導入が遅れてしまいます。」
実際の導入事例
【事例1】制作会社様（従業員15名）
課題: WordPressサイトの画像ファイルが特定サーバーに依存
導入効果:
- サーバー障害時の復旧時間：4時間 → 0分
- 新サーバー追加時の作業時間：1日 → 30分
- 月額コスト：サーバー増設費用20万円 → EFS利用料5,000円
【事例2】EC販売会社様（従業員30名）
課題: 商品画像の更新作業が複雑
導入効果:
- 画像更新作業時間：3時間 → 10分
- ミスによる古い画像表示：月5件 → 0件
- 担当者の残業時間：月20時間削減
Amazon EFSの導入手順（簡単3ステップ）
ステップ1：AWSアカウント作成（10分）
- AWS公式サイトにアクセス
- 「無料でアカウント作成」をクリック
- 基本情報とクレジットカード情報を入力
- 電話番号認証で完了
ステップ2：EFS作成（15分）
- AWSコンソールにログイン
- 「EFS」を検索して選択
- 「ファイルシステムの作成」をクリック
- 基本設定のまま「作成」
- 5分程度で作成完了
ステップ3：サーバーからマウント（20分）
- サーバーにEFSクライアントをインストール
- 提供されたマウントコマンドを実行
- 正常にアクセスできることを確認
合計所要時間：約45分
初心者の方へ
「AWSって難しそう…」と感じる方も多いですが、EFSの基本的な設定は画面の指示に従うだけで完了します。万が一わからない場合は、AWSの日本語サポートが丁寧に教えてくれるので安心してください。
Mountpoint for Amazon S3：特殊用途の高性能ツール
一方、Mountpoint for Amazon S3は、全く異なる課題を解決するためのツールです。
主要な機能と特徴
【機能1】S3の圧倒的な読み込み速度
- 数テラバイトのファイルも高速アクセス
- 複数サーバーからの並列読み込みに最適化
- ネットワーク帯域を最大限活用
- 「データのダウンロードを待つ時間がもったいない」を解決
【機能2】コスト効率の追求
- Mountpoint自体は無料
- 裏側で動くS3の料金のみ
- 大容量データほどコストメリット大
- 「ペタバイト級のデータ保存も現実的な料金」
【機能3】読み込み専用の安全性
- 既存ファイルの変更・削除は不可
- 誤操作による大切なデータ消失を防止
- 新規ファイル作成のみ可能
- 「研究データを安全に共有したい」に最適
重要な制限事項（導入前に必ず確認）
しかし、Mountpoint for Amazon S3には、一般的なビジネス用途では致命的な制限があります。
【制限1】ファイル編集ができない
- 既存ファイルの上書き保存：不可
- ファイル内容の一部修正：不可
- ファイル名の変更：不可
- 普通のファイルサーバーとして使用：不可
【制限2】権限管理の問題
- ファイルの所有者情報：保持されない
- アクセス権限設定：制限あり
- タイムスタンプ：変更される
- 既存システムからの移行：困難
【制限3】運用面での課題
- サーバー再起動時：手動で再マウント必要
- 自動化設定：技術者のスキル必須
- トラブル時の調査：高度な知識要求
実際の検証結果より
「既存のWebサーバーファイルをMountpoint for Amazon S3に移行しようとしたところ、ファイルの権限情報が失われ、Webサイトが正常に動作しませんでした。結果的に、1週間の検証期間を経てAmazon EFSに方針変更することになりました。」
Mountpoint for Amazon S3が輝く特殊な場面
では、このツールはどんな場面で真価を発揮するのでしょうか？
【適用例1】機械学習のデータ処理
シチュエーション: AIモデルの学習用に数百万枚の画像データを複数のサーバーで並列処理
メリット:
- 画像データの読み込み速度：従来の10倍
- 複数サーバーでの同時処理：効率的
- データ転送コスト：大幅削減
【適用例2】メディア企業の動画処理
シチュエーション: 4K動画の編集素材を複数の編集ワークステーションで共有
メリット:
- 巨大な動画ファイルアクセス：待機時間なし
- 編集素材の一元管理：バージョン管理不要
- ストレージコスト：従来の1/3
【適用例3】研究機関のデータ分析
シチュエーション: 気象データや医療データなど、ペタバイト級の読み取り専用データを分析
メリット:
- データの安全性：誤削除リスクゼロ
- アクセス速度：研究効率向上
- 保存容量：実質無制限
2つのサービスの詳細比較
具体的にどちらを選ぶべきか、より詳しく比較してみましょう。
パフォーマンス比較
| 比較項目 | Amazon EFS | Mountpoint for Amazon S3 |
|---|---|---|
| 読み込み速度 | 中程度（安定） | 非常に高速 |
| 書き込み速度 | 中程度 | 低速（新規作成のみ） |
| 同時アクセス | 最適化済み | 読み込みのみ最適化 |
| レスポンス安定性 | 非常に安定 | 高い（読み込み時） |
コスト比較（月額換算）
100GBのデータを使用する場合
Amazon EFS
- ストレージ料金：100GB × 33円 = 3,300円
- データ転送料金：約500円
- 合計：約3,800円/月
Mountpoint for Amazon S3
- ストレージ料金：100GB × 2.3円 = 230円
- APIリクエスト料金：約200円
- データ転送料金：約300円
- 合計：約730円/月
コスト面での注意点
一見するとMountpoint for Amazon S3の方が安く見えますが、これは「読み込み専用」という大きな制限があることを忘れてはいけません。一般的なビジネス用途では、この制限により実用性が大幅に損なわれます。
運用・保守面での比較
| 項目 | Amazon EFS | Mountpoint for Amazon S3 |
|---|---|---|
| 自動マウント | 標準対応 | 要設定（技術者必要） |
| 障害復旧 | 自動 | 一部手動対応 |
| 監視・アラート | 充実 | 基本的なもののみ |
| サポート体制 | 日本語対応 | 日本語対応（制限的） |
| ドキュメント | 豊富 | 限定的 |
セキュリティ比較
| セキュリティ要素 | Amazon EFS | Mountpoint for Amazon S3 |
|---|---|---|
| データ暗号化 | 自動（保存時・転送時） | 自動（保存時・転送時） |
| アクセス制御 | きめ細かい設定可能 | 基本的な設定のみ |
| 監査ログ | 詳細な記録 | 基本的な記録 |
| コンプライアンス | 多数の認証取得済み | S3準拠 |
よくある質問（Q&A）
Q1. 「うちの会社、ITに詳しい人がいないけど大丈夫？」
A. Amazon EFSなら大丈夫です。基本的な設定はAWSの管理画面で完結し、日本語のサポートも充実しています。
一方、Mountpoint for Amazon S3は技術的な知識が必要で、初心者には推奨できません。
Q2. 「料金が心配…思ったより高くならない？」
A. Amazon EFSは使った分だけの課金なので、小さく始めて徐々に拡大できます。
目安として：
- 小規模利用（50GB）：月額約1,500円
- 中規模利用（200GB）：月額約6,600円
- 大規模利用（1TB）：月額約33,000円
既存のサーバー増設費用と比較すると、多くの場合でコスト削減になります。
Q3. 「導入作業で業務が止まる？」
A. 適切に計画すれば、業務停止時間は最小限に抑えられます。
推奨導入手順：
- テスト環境での検証（1週間）
- 段階的移行（重要度の低いファイルから）
- 本格運用開始（メンテナンス時間内で切り替え）
多くの企業で、実際の業務停止は2-3時間程度で完了しています。
Q4. 「セキュリティは大丈夫？社内データが外部に…」
A. AWSは世界最高水準のセキュリティを提供しており、多くの政府機関や金融機関も利用しています。
主な安全対策：
- 保存データと転送データの暗号化
- アクセスログの詳細記録
- 多要素認証対応
- 定期的なセキュリティ監査
むしろ、自社でサーバーを管理するより安全性が向上するケースが多いです。
Q5. 「Mountpoint for Amazon S3とEFS、どちらか迷ったら？」
A. 以下のチェックリストで判断してください：
Amazon EFSを選ぶべき場合（該当項目が多いほど適している）
- ✅ Webサイトやアプリでファイルを共有したい
- ✅ ファイルの編集・更新が頻繁にある
- ✅ 複数の人がファイルを変更する
- ✅ システムの可用性向上が目的
- ✅ ITの専門知識が社内に少ない
Mountpoint for Amazon S3を選ぶべき場合
- ✅ 機械学習やデータ分析が主目的
- ✅ ファイルは読み込み専用でよい
- ✅ ペタバイト級の大容量データを扱う
- ✅ 技術的な設定・運用ができる人材がいる
- ✅ コストを最優先したい
9割の一般企業様には、Amazon EFSをお勧めします。
競合サービスとの比較
クラウドストレージには他の選択肢もあります。主要なものと比較してみましょう。
Amazon EFS vs 競合サービス
| サービス | 月額料金 | 使いやすさ | サポート | 総合評価 |
|---|---|---|---|---|
| Amazon EFS | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ | ★★★★☆ |
| Google Cloud Filestore | ★★☆☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ |
| Azure Files | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ |
| 自社NAS | ★★★★★ | ★★☆☆☆ | ★☆☆☆☆ | ★★☆☆☆ |
なぜAmazon EFSが選ばれるのか？
【理由1】実績と信頼性
- 世界中で数百万の企業が利用
- 99.999999999%の堅牢性実績
- 24時間365日の監視体制
【理由2】日本でのサポート体制
- 日本語での技術サポート
- 日本人エンジニアによる対応
- 豊富な日本語ドキュメント
【理由3】エコシステムの充実
- 他のAWSサービスとの連携が容易
- 豊富なサードパーティツール
- 活発なコミュニティ
導入を成功させるための実践的なアドバイス
導入前の準備チェックリスト
【技術面の確認】
- [ ] 現在使用中のサーバーOSとバージョン
- [ ] 移行対象ファイルの総容量
- [ ] 同時アクセスするサーバー数
- [ ] 必要なアクセス権限の洗い出し
【運用面の確認】
- [ ] 作業担当者の決定（社内 or 外注）
- [ ] テスト期間の設定（推奨：2週間）
- [ ] 本格移行のタイミング（業務への影響を考慮）
- [ ] 万が一の際のロールバック計画
【コスト面の確認】
- [ ] 現在のストレージコスト（サーバー、電気代等含む）
- [ ] AWS利用料の予算確保
- [ ] 導入作業にかかる人件費
失敗しないための注意点
【よくある失敗例1】いきなり本番環境で実施
失敗内容: テストなしで本番環境に導入し、予期しない問題でサービス停止
対策: 必ずテスト環境で1-2週間の検証期間を設ける
【よくある失敗例2】容量計算の甘さ
失敗内容: 想定より大幅に料金が高くなった
対策: 現在のファイル容量を正確に測定し、20%のバッファを見込む
【よくある失敗例3】権限設定の不備
失敗内容: 一部のファイルにアクセスできない状況が発生
対策: 移行前に詳細なアクセス権限表を作成
社内の合意形成のコツ
【経営陣への説明ポイント】
- ROI（投資収益率）の明確化
- 現状の課題による損失額（サーバー障害時の機会損失等）
- 導入による効果の定量化（作業時間短縮、障害リスク軽減）
- 競合他社の動向
- 同業他社のクラウド活用事例
- 技術的な遅れによるリスク
- 段階的な導入計画
- 小さく始めて大きく育てる安全なアプローチ
- 途中での方針変更も可能
【現場担当者への説明ポイント】
- 業務の楽になる部分を具体的に説明
- 「サーバー障害時の深夜対応がなくなります」
- 「ファイルコピー作業から解放されます」
- 新しいスキルの習得機会として提示
- 履歴書に書けるクラウド経験
- 市場価値の向上
- 十分なサポート体制の保証
- 導入時の手厚いフォロー
- 困った時の相談窓口
まとめ：あなたの会社に最適な選択は？
この記事では、Mountpoint for Amazon S3とAmazon EFSという2つのクラウドストレージサービスを詳しく比較してきました。
最終的な推奨方針
【一般企業の90%にはAmazon EFS】
- Webサイト運営
- 業務システムのファイル共有
- バックアップファイルの管理
- 開発環境での共同作業
→ 迷ったらAmazon EFSを選択してください
【特殊用途にはMountpoint for Amazon S3】
- 機械学習データの高速処理
- ビッグデータ分析
- 読み込み専用の巨大アーカイブ
- 研究機関でのデータ共有
今すぐできる次のアクション
- 現状の課題を整理する（15分）
- どんなファイル共有の問題があるか書き出す
- 月間どのくらいの損失（時間・コスト）があるか計算
- 無料で試してみる（1時間）
- AWSアカウントを作成（12ヶ月の無料枠あり）
- Amazon EFSでテスト環境を構築
- 実際の操作感を確認
- 社内での相談・提案（1週間）
- 関係者に課題と解決策を共有
- 小規模での導入テストを提案
- 必要に応じて外部専門家への相談を検討
さいごに
クラウドストレージの導入は、「いつかやらなければ」ではなく「今すぐ取り組むべき」課題です。競合他社が効率化を進める中、従来の方法にこだわり続けることは、ビジネスチャンスの損失につながります。
まずは小さな一歩から始めて、あなたの会社の競争力を高める第一歩を踏み出しませんか？
今日からできること：AWSの無料アカウント作成と、Amazon EFSの30分間お試し体験。きっと「こんなに簡単だったのか」と感じていただけるはずです。
著者プロフィール
中小企業向けAI・クラウド導入コンサルタント。過去100社以上のシステム効率化を支援。「難しい技術を、誰にでも分かる言葉で」をモットーに、実践的なアドバイスを提供している。
